銭湯雑誌「1010」誌に掲載されていたエッセイのバックナンバーです
今回の夢銭湯のアイデアは、今の時代では本当に「夢の銭湯」なのかもしれません。木造の銭湯だからです。経営者からすると、木造の風呂は、どうしても腐り、かび、浴槽のぬるつきが気になります。
しかし木造の銭湯が無いわけではありません。世田谷の有名な藤の湯さんは、昔ながらの木造銭湯の良さをを生かした中普請をされました。普請後10年以上経過した現在も、時間を刻まれた木の内装が良い雰囲気となっています。また温泉旅館などで日常的な手入れをしっかりとしている所は、古さが味わいとなって逆に趣を感じるものです。材料の年月の経過が不潔感では無く、「風流」なものに見せるデザインとメンテナンスの関係があれば、木造の銭湯もあり得ないわけではありません。そもそも銭湯は木造だったのです。
今までこのコーナーで書いてきたように、近年の銭湯の改修は近代化の一方です。そこに入浴者の心を本当にやわらげるものがあるか、疑問に思います。多くの他分野では自然素材や、自然エネルギーが注目を集めています。そこには自然ならではの力が潜んでいることが科学的にも証明されはじめたからです。
今回、縁側の湯と題したこのアイデアは、タイトルどおり縁側を中心に空間が展開します。下の絵は浴室内の場面を描きましたが、窓の向こうに縁側に出ている人が見えます。そして右図にあるように、色の付いた縁側の部分が外部の庭と、浴室をつないでいます。夏期は、裸で縁側に出て、庭を見ながら夕涼みができます。どこもかしこも空調管理された都会では、この縁側に出ることが、季節を肌で感じる貴重な時間となります。この縁側は自然を感じることで、心身共に「自然」に戻る自分を感じることができる空間となるのです。
(2000年 1010誌46号掲載バックナンバー)