銭湯雑誌「1010」誌に掲載されていたエッセイのバックナンバーです
入浴料金¥400・・・・はたしてこれは高いのか、安いのか?・・・・そもそも入浴料金は物価統制令のもと、東京都の場合は都知事(ということは石原慎太郎氏)によって告知されるわけですが、まぁ物統令についての是非はさておき公衆浴場の入浴料金には、利用者も経営者もいろいろな意見があるところだと思います。
毎日家族連れ立っての利用となったらこの不況のご時世、やっぱり利用者としては少し考えてしまう値段かもしれません。主婦であれば「¥400あればダイコン3本買えるか?」と考えるかどうか解りませんが、財布のヒモも締まるところでしょう。でも別の見方をすれば・・・例えば携帯電話でちょっと話をしたら通話料¥400なんてホントにすぐだし、居酒屋で生ビール一杯=¥400。銭湯でひとっ風呂と、いったいどっちが高いんでしょう?。
値段が高いか安いか?これはつまるところ、金を出す側にとってその価値があるか無いかできまります。銭湯の場合ゆゆしきことではありますが、利用者から「その価値無し」とされつつあるわけです。今の時代「体を洗って風呂に入る」という生活入浴的側面だけでなく、言ってみれば「付加価値」が必要とされる時代となったわけです。近年の銭湯は、その付加価値を座風呂や寝風呂、マッサージバスやサウナ等設備面で新しい部分をアピールしてきました。またはカラオケ、飲食施設の併設等の工夫も見られます。しかしせっかくの銭湯なんだか浴室の空間として何か工夫できないものでしょうか?
そこで私が考えるのが「空間の入浴アイテム」ということです。これは「銭湯ならではの入浴空間」を新しい形で提供するという提案です。今回はそのアイデアのひとつ「冥想の湯」を紹介します。この空間は四方を壁で囲み、落ち着きと静けさを与える空間としてイメージしています。ポイントとなるのは天井のトップライトから入る柔らかな自然光(夜間は間接照明)と壁にあけられた小さな丸窓から入る光です。あえて薄暗い中に、印象的な光を演出したこの空間は、瞑想しながら入浴することをイメージしています。そのためバイブラ等の設備は音がするので使用せず、吐湯口から湯の音だけを室内に響かせます。本格的な薬湯にすれば、じっくりと心身を癒せる空間となるでしょう。これはまさに日常的ナチュラルヒ-リング!。
この空間は、サウナや露天風呂を作るにはちょっと狭い、浴室脇のちょっとしたスペースを有効に利用して作ることも可能です。このような空間による入浴アイテムが、今までの入浴施設にはほとんどありませんでした。こうした形の空間創りは、今後の銭湯にとって非常に有効な付加価値付けのアイデアとなるのではないでしょうか。
(2000年 1010誌48号掲載バックナンバー)