銭湯雑誌「1010」誌に掲載されていたエッセイのバックナンバーです
「民家再生」…このところ新聞や雑誌でよく目にするキーワードです。これはコンクリートや化学素材に囲まれた現代生活に違和感を覚え、昔の木造家屋など、古きよき家がもっていた魅力に気付く人が多くなっているからでしょう。お店のインテリアでも「古材」といって民家に使用されていた材料を、建材として再利用する方法が人気を呼んでいます。
先日、私も移築された立派な民家に接する機会があったのですが、その素朴で力強い空間にあらためて感動させられました。そこで考えたのが、「この空間をそのまま銭湯にしてみたらどうだろう?」ということです。大型スパ施設などでは、それらしき造りの風呂を目にすることがありますが、あくまでもイミテーションにとどまるものばかりなのが残念です。そこでは歳月を重ねた柱や梁(はり)で構成される「本物の空間」がもつ味わいや、いやしの力などを感じることはできません。「本物の民家」と「風呂」がひとつになった銭湯に入ってみたいと思いませんか? 民家は天井も高いし、銭湯にはぴったりの空間だと思うのです。
一番の問題は浴室の換気だと思いますが、囲炉裏(いろり)が使われていた民家には、煙を排出するための自然換気の仕組みがあり、この仕組みは浴室の湿気対策にも応用できるのではないかと思います。当然それだけでは不十分でしょうから、テクノロジーを利用した換気計算のシミュレーションをして、必要な場所に換気窓などを設け、自然換気による空調システムを強化する必要があるかもしれません。新建材や新技術にではなく、古いものや自然を生かすためにテクノロジーを利用するのです
21世紀は、生産性や効率だけではなく、自然や伝統的なものの中にある意味や価値、その力がより注目される時代になることは確実です。昔は、東京の銭湯の建築形式といえば寺社型でしたが、これを民家に置き換えても非常に面白いのではないかと思います。
(2001年 1010誌53号の掲載バックナンバー)