暖雪札幌

四季に加え、その土地ならではの気候風土を「五番目の季節」として捉え、特別な体験を提供する「FIFTH SEASONS HOTEL」シリーズ。「暖雪札幌」はそのひとつとして計画されたホテルで、弊社はその浴室とサウナ空間をTTNTの松尾大氏とのコラボにより、設計プロデュースさせていただきました。「暖雪」はホテル名称であると同時に「北海道の寒い冬から暖かい春へと移り変わる季節の期待感や生命力、美しさを表現する」意図をもつコンセプトワードでもあり、大浴場およびサウナ空間においても、このコンセプトに基づく空間表現が求められました。またさらに「北海道らしさの表現」そして「リピーターが多いホテルを目指したい」というテーマをクライアントからいただき、合わせて三つのテーマを通じて空間デザインを構築していくこととなりました。

ひとつ目のテーマは「暖雪」の空間表現。「暖かな雪」という、一見相反するイメージを同時に感じさせる空間を構築するために、空間全体をモノトーンベースのシンプルなデザインで統一感をもたせつつ、人の手や体が触れる部位には天然素材を用い、素材を通じて温もりを感じられることができるようなデザインとしました。言わば「クールなのに温もりを感じる空間」の表現です。浴室空間は裸での利用が前提となり、素材が肌に直接触れる部位があるため、素材感が使用感に大きな影響を与えます。そのため、特にチェアやベンチ、脱衣ロッカーなどの部位には天然木材を使用しています。また外気浴場のととのいチェアは、弊社設計＋松尾大氏監修による特注オリジナルデザインとなっています。

二つ目のテーマである「北海道らしさの表現」については、天然素材の部位に北海道産材を極力用いることとしました。木材や石材といった自然素材は、触れるたびにその冷たさや温かさ、滑らかさやざらつきなど多様な感覚を利用者にもたらします。この素材感は利用者が北海道を肌で感じるための重要な要素となります。サウナ室の外部側壁面には独特の地域産材である札幌軟石の割肌仕上げを使用し、脱衣室および外気浴場のタテ格子には道南杉が使われています。またサウナ室のストーブ周りには「カンラン岩」という北海道特産のサウナストーンを積み上げています。これら北海道の豊かな自然素材による視覚的・触覚的な利用体験を通じ、利用者が五感で北海道を感じるような湯空間造りを目指しました。また北海道を象徴するワンポイントアクセントとして、サウナ後の掛水給水口に特注オリジナルデザインによる熊の陶器オブジェを設置しています。

三つ目の「リピーターが多いホテルを目指す」というテーマに対しては、単に美しい空間をつくるだけでなく、機能性や動線計画に留意し、ストレスを感じないデザインを優先課題としました。心地よい使い勝手を伴う空間が利用者の満足度につながり、リピーターの獲得につながると考えたからです。自然素材を極力多用したのは、心地よい利用感を感じてもらうためでもあります。

さて今回の暖雪札幌のデザインは、日本のサウナ文化の発展、進化に大な影響力をもつ人物である松尾大氏（ととのえ親方_TTNE）と弊社の初のコラボレーション案件です。松尾氏のアテンドにより、札幌周辺のサウナ施設数件を一緒に巡り、今回プロジェクトの核となる部分について語り合うところからコラボがスタートしました。

その後はCGや図面を用いてコミュニケーションをはかり、部位ごとにイメージを共有しながら設計を進行させていき、プロセスの中ではお互い多くを語らずとも共通理解が生まれ、自然と完成度が高まっていくような感覚がありました。そして最終的なデザインは「シンプルで全体に自然な調和に満ちた、飽きのこない」サウナ空間となりました。派手な演出や奇抜なデザイン要素はありませんが、実際にこのサウナ空間を体験すると、その良さが、じわじわと伝わる心地よい湯空間に仕上がったと感じています。