印象的なひびきを感じる「五色湯」というネーミング。その店名の背後には、江戸時代に由来する歴史と縁起が存在しています。江戸時代には陰陽五行説が人々の生活に深く根付いており、この五行説に基づき江戸五色不動が配置されたとされています。五色不動とは江戸の街の重要な方位を司る場所に、五行の色(白・黒・青・赤・黄)に対応する不動明王像が祀られたものです。「白」に対応する目白不動が近隣の金剛寺に祀られたことで、土地の守護神として機能していました。こうした地域の歴史的な背景を受け継ぐ五色湯は、名前そのものに土地の記憶と歴史を宿していると言えます。
そのような地歴をふまえ、今回の五色湯のリノベーションにおけるデザインコンセプトを「湯治場銭湯」としました。このコンセプトは、上記の金剛寺が伝える健康増進や病疫退散といった『ご利益』に因んだものです。江戸時代において湯治場は、病気治療や健康維持のための特別な場所として機能していましたが、現代においてもその精神は変わらないと考えます。こういったことから五色湯は、都市の喧騒から一時的に離れ、心身を癒やして再生される場所をイメージしてデザインしました。忙しい都市の生活者にとって「心身の湯治場」的なるものが日常生活の中に
必要であり、これは現代の都市型銭湯が持つべき新たな役割であると考えます。
そういった観点から、五色湯では温泉地の湯治場のような落ち着きと特別感をもたせつつ、都市生活の日常に溶け込むような空間デザインを心がけました。内部空間は古民家に見られる「温もりと重厚感」を同時に感じられるよう、極力天然木材を使用しました。またタイル・木・井草といった新設する素材と、旧店舗にあったレトロイメージのインテリアエレメントを一部再生利用し全体空間を調和させることで、古民家にいるようなくつろぎを感じられるよう意図しています。そして照明や配色の面では陰陽五行説に基づく色彩バランスをベースとしてデザインし、五行がもたらすエネルギーを感じつつ心地よさを感じるような空間創りを目指しました。
今回のリノベーションを通じて、五色湯は現代の都市生活者にとって必要だと思われる「心身の湯治場」としての役割を果たす存在へと生まれ変わりました。この場所が歴史ある名前を引き継ぎながら、今を生きる人々の健康と幸福を支える新しい空間として地域に根ざして愛され続けることを願っています。